2008年2月2日土曜日

畠山記念館「花によせる日本の心」展

「花によせる日本の心」展
(写真=展覧会案内と収蔵品図録『與衆愛玩』)

静けさの中で花鳥と出会う

展覧会案内の、酒井抱一(さかい・ほういつ)筆「椿・梅に鶯図」と、夜桜蒔絵四半硯箱に魅了されて、畠山記念館「花によせる日本の心―梅・桜・椿を中心に―」展(2008年1月8日[火]~3月9日[日])を見に行きました。

都営浅草線高輪台駅を降りて、閑静な住宅街の細道を抜け、左折して少し行くと、畠山記念館の正門に出ます。門を入って、広い敷地を見渡すと、一気にタイムスリップして、かつての武蔵野の面影を見るようです。

記念館の2階が展示会場となっています。展示品は、花をテーマとする書・画・工芸品など50点弱です。陳列ケースの間のスペースも広くとってあります。私が訪れたのは、平日であったせいか、観覧者も少なく、名品を静かに、じっくりと見ることができました。

酒井抱一「椿・梅に鶯図」(江戸時代、19世紀)は、写真で見ていた以上に、梅の幹の線と色、そして鶯の丸味を帯びた輪郭に、温かみを感じました。大振りの椿の花の、鮮やかな赤も、強く心に残りました。〔2月7日(木)まで〕

また夜桜蒔絵四半硯箱(江戸時代、17世紀)も、写真で想像していたよりも、かなり小さいものでした。その小さな箱の蓋に、月と、咲く花と、散る花びらを描く、大胆な趣向に目をみはりました。

「万葉集と古代の書物」という観点からは、次の作品が注目されました。


[21]堺色紙(さかいしきし)(伝藤原公任筆。1幅。平安時代)〔2月7日(木)まで〕

・薄藍色の染紙(そめがみ)に、鳥(尾長鳥)・菊を、銀泥で描いた料紙を用いています。『古今和歌集』の歌を、散書(ちらしがき)にしています。

  はるくれば やどにまづさく むめの花 君がちとせの かざしとぞなる  (賀・352・紀貫之)
  (春くれば 屋戸にまづ咲く 梅の花 君が千年の かざしとぞなる)

・歌は、行間・字間を、贅沢なまでに、広くとっています。2、3文字が連綿し、その文字群が、変化に富む空間を作り出しています。特に、低い位置に書かれた、第三句「むめの花」は、早春にひっそりと咲く梅の花を想像させます。

・堺色紙は、元来、巻子本であったと考えられています。この畠山記念館所蔵の断簡のような空間を構成する和歌が、巻子本として連続的に書かれていた姿を想像すると、興味をかき立てられます。

・堺色紙の書写年代は、12世紀前半と推測されています。先の記事「東京国立博物館『宮廷のみやび』展」で、本阿弥切(ほんあみぎれ)を紹介したところでも触れましたが、11世紀後半から12世紀にかけて、『古今和歌集』を中心とする巻子本に、大きな変革が起こっていたことが、窺えます。
*なお、堺色紙の縦の寸法は、26.9㎝、または21.1㎝(畠山記念館所蔵断簡)です。

・また、『古今和歌集』の賀の部の料紙として(しかも、畠山記念館所蔵断簡では、早春の歌であるのに)、尾長鳥・秋草、そして、他機関所蔵の断簡によれば蝶その他を描く紙が用いられていることも、注目されます。
*桂本万葉集の下絵を、想起します。

その他、
[37]香紙切(こうしぎれ)(伝小大君筆。1幅。平安時代)も、本来、冊子本(粘葉装〈でっちょうそう〉)でしたが、歌を右の方に書き、左には大きな余白をとっています。どのような紙面の、冊子本であったのでしょうか。

茶室の水音だけが響く、静けさの中で、日本のデザインと、古代に書物に思いを馳せました。


��主な参考文献]
��.財団法人畠山記念館編『與衆愛玩 畠山即翁の蒐集品』畠山記念館、2005年 〔畠山記念館にて購入できます。3,800円〕
��.小松茂美編『日本書道辞典』二玄社、1987年
��.春名好重・杉村邦彦・永井敏男・中村淳・西林昭一・三浦康廣編『書道基本用語詞典』中教出版、1991年


畠山記念館