2014年7月16日水曜日

小川町観光協会編『万葉うためぐり』

万葉うためぐり

“武蔵の小京都”埼玉県小川町と『万葉集』
��小川町観光協会編、小川靖彦監修・執筆、村永清・新田文子執筆『万葉うためぐり 学僧仙覚ゆかりの武蔵国小川町を歩く』笠間書院、四六判112頁〈オールカラー〉、2014年6月刊、900円〈税別〉)

2014年7月に、私も関わった『万葉うためぐり 学僧仙覚ゆかりの武蔵国小川町を歩く』が発売となりました。

このブログでたびたび紹介してきましたように、埼玉県比企郡小川町は、『万葉集』研究史の巨星である、鎌倉時代の学僧仙覚(せんがく)が、画期的注釈書『万葉集註釈』を完成した地です。

小川町は“武蔵の小京都”と言われ、豊かな自然に恵まれ、歴史がつちかったなつかしい風景があります。江戸時代から、紙漉き、養蚕と絹織物、酒造り、建具、そうめんなどの産業が栄えています。

この小川町で、昭和の初めに、国文学者・歌人の佐佐木信綱と町の人々が一体となって、仙覚の業績の顕彰に努めました。そして、今日では、町を挙げて、仙覚が生涯を捧げた『万葉集』の普及活動も進めています。

その一環として刊行されたのが、『万葉うためぐり 学僧仙覚ゆかりの武蔵国小川町を歩く』です。この本は、オールカラーで『万葉集』の歌73首の魅力と、仙覚の業績を、わかりやすく解説しています。そして、それぞれの歌の解説には、その歌にふさわしい、小川町の情景や花の写真、名産品などの写真や説明を添えています。

心癒されるこれらの写真が、不思議なほどに、『万葉集』の世界を身近に感じさせてくれます。そして、関東の小川町の自然を通してでも、万葉の心に触れることができることに、『万葉集』の世界のふところの深さを、改めて感じさせられます。

この本で解説されている73首の歌は、小川町の市街地に立てられた70本の「万葉モニュメント」に取り上げられている歌です。この本を手に、「万葉モニュメント」の立てられた、約2㎞の散歩道「仙覚万葉の里と散策の道」を歩いてみてはいかがでしょうか。ガイドとなる詳細な地図もついています。

なお、この本では、仙覚の和歌と、仙覚研究に関わる重要な研究文献も網羅して、掲載しています。仙覚が『万葉集註釈』を完成した比企郡北方麻師宇郷(ましうごう)政所(まんどころ)についての最新の研究情報も紹介しています。仙覚や和歌史、鎌倉時代の歴史に関心ある方々にも利用していただければ幸いです。


万葉うためぐり1 

【目次】
発刊に寄せて
○地図1 仙覚万葉の里と散策のみち ○地図2 小川町の情景を訪ねて ○主要交通機関からのアクセス


Ⅰ『万葉集』ゆかりの地小川へようこそ
1 小川町と『万葉集』
  (武蔵の小京都・小川 万葉学者仙覚ゆかりの地)
2 『万葉集』の世界
  (古代人の感性の宝庫 画期的書物 読み継がれる歴史)


Ⅱ小川町万葉うためぐり
「小川町・万葉うためぐり」への招待
1 熟田津に 船乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今は漕ぎ出でな (巻1・八  額田王)
2 あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る (巻1・二〇  額田王)
3 紫草の にほへる妹を 憎くあらば 人妻故に 我恋ひめやも (巻1・二一  大海人皇子)
4 春過ぎて 夏来るらし 白栲の 衣干したり 天の香具山 (巻1・二八  持統天皇)
5 東の 野にかぎろひの 立つ見えて かへり見すれば 月かたぶきぬ (巻1・四八  柿本人麻呂)
6 采女の 袖吹きかへす 明日香風 都を遠み いたづらに吹く (巻1・五一  志貴皇子)
7 川の上の つらつら椿 つらつらに 見れども飽かず 巨勢の春野は (巻1・五六  春日老)
8 葦辺行く 鴨の羽がひに 霜降りて 寒き夕は 大和し思ほゆ (巻1・六四  志貴皇子)
9 秋の田の 穂の上に霧らふ 朝霞 いつへの方に 我が恋やまむ (巻2・八八  磐姫皇后)
10 我が里に 大雪降れり 大原の 古りにし里に 降らまくは後 (巻2・一〇三  天武天皇)
   我が岡の おかみに言ひて 降らしめし 雪のくだけし そこに散りけむ (巻2・一〇四  藤原夫人)
11 我が背子を 大和へ遣ると さ夜更けて 暁露に 我が立ち濡れし (巻2・一〇五  大伯皇女)
   百伝ふ 磐余の池に 鳴く鴨を 今日のみ見てや 雲隠りなむ (巻3・四一六  大津皇子)
12 人言を 繁み言痛み 己が世に いまだ渡らぬ 朝川渡る (巻2・一一六  但馬皇女)
13 笹の葉は み山もさやに さやげども 我は妹思ふ 別れ来ぬれば (巻2・一三三  柿本人麻呂)
14 岩代の 浜松が枝を 引き結び ま幸くあらば また帰り見む (巻2・一四一  有間皇子)
   家にあれば 笥に盛る飯を 草枕 旅にしあれば 椎の葉に盛る (巻2・一四二  有間皇子)
15 山吹の 立ちよそひたる 山清水 汲みに行かめど 道の知らなく (巻2・一五八  高市皇子)
16 高円の 野辺の秋萩 いたづらに 咲きか散るらむ 見る人なし (巻2・二三一  笠金村)
17 隼人の 薩摩の瀬戸を 雲居なす 遠くもわれは 今日見つるかも (巻3・二四八  長田王)
18 天離る 鄙の長道ゆ 恋ひ来れば 明石の門より 大和島見ゆ (巻3・二五五  柿本人麻呂)
19 近江の海 夕波千鳥 汝が鳴けば 心もしのに いにしへ思ほゆ (巻3・二六六  柿本人麻呂)
20 桜田へ 鶴鳴き渡る 年魚市潟 潮干にけらし 鶴鳴き渡る (巻3・二七一  高市黒人)
21 田子の浦ゆ うち出でて見れば 真白にぞ 富士の高嶺に 雪は降りける (巻3・三一八  山部赤人)
22 あをによし 奈良の都は 咲く花の にほふがごとく 今盛りなり (巻3・三二八  小野老)
23 憶良らは 今は罷らむ 子泣くらむ それその母も 我を待つらむぞ (巻3・三三七  山上憶良)
24 験なき ものを思はずは 一坏の 濁れる酒を 飲むべくあるらし (巻3・三三八  大伴旅人
25 君待つと 我が恋ひ居れば 我が宿の 簾動かし 秋の風吹く (巻4・四八八  額田王)
   風をだに 恋ふるは羨し 風をだに 来むとし待たば 何か嘆かむ (巻4・四八九  鏡王女)
26 相思はぬ 人を思ふは 大寺の 餓鬼の後方に 額つくごとし (巻4・六〇八  笠女郎
27 夕闇は 道たづたづし 月待ちて 行ませ我が背子 その間にも見む (巻4・七〇九  大宅女)
28 銀も 金も玉も 何せむに まされる宝 子にしかめやも (巻5・八〇三  山上憶良)
29 梅の花 夢に語らく みやびたる 花と我れ思ふ 酒に浮かべこそ (巻5・八五二  大伴旅人)
30 若の浦に 潮満ち来れば 潟をなみ 葦辺をさして 鶴鳴き渡る (巻6・九一九  山部赤人)
31 み吉野の 象山の際の 木末には ここだも騒く 鳥の声かも (巻6・九二四  山部赤人)
   ぬばたまの 夜の更けゆけば 久木生ふる 清き川原に 千鳥しば鳴く (巻6・九二五  山部赤人)
32 道の辺の 草深百合の 花笑みに 笑みしがからに 妻と言ふべしや (巻7・一二五七  作者未詳)
33 月草に 衣は摺らむ 朝露に 濡れての後は うつろひぬとも (巻7・一三五一  作者未詳)
34 石走る 垂水の上の さわらびの 萌え出づる春に なりにけるかも (巻8・一四一八  志貴皇子)
35 春の野に すみれ摘みにと 来し我れぞ 野をなつかしみ 一夜寝にける (巻8・一四二四  山部赤人)
36 かはづ鳴く 神なび川に 影見えて 今か咲くらむ 山吹の花 (巻8・一四三五  厚見王)
37 昼は咲き 夜は恋ひ寝る 合歓木の花 君のみ見めや 戯奴さへに見よ (巻8・一四六一  紀女郎)
38 夏の野の 茂みに咲ける 姫百合の 知らえぬ恋は 苦しきものぞ (巻8・一五〇〇  大伴坂上郎女)
39 夕されば 小倉の山に 鳴く鹿は 今夜は鳴かず 寝ねにけらしも (巻8・一五一一  舒明天皇)
40 彦星し 妻迎へ舟 漕ぎ出づらし 天の川原に 霧の立てるは (巻8・一五二七  山上憶良)
41 萩の花 尾花葛花 なでしこの花 をみなへし また藤袴 朝顔の花 (巻8・一五三八  山上憶良)
42 夕月夜 心もしのに 白露の 置くこの庭に こほろぎ鳴くも (巻8・一五五二  湯原王)
43 常世辺に 住むべきものを 剣大刀 汝が心から おそやこの君 (巻9・一七四一  高橋虫麻呂)
44 埼玉の 小崎の沼に 鴨ぞ翼霧る 己が尾に 降り置ける霜を 掃ふとにあらし (巻9・一七四四  高橋虫麻呂)
45 春されば まづさきくさの 幸くあらば 後にも逢はむ な恋ひそ我妹 (巻10・一八九五  柿本人麻呂歌集)
46 道の辺の いちしの花の いちしろく 人皆知りぬ 我が恋妻は (巻11・二四八〇  柿本人麻呂歌集)
47 新室の 壁草刈りに いましたまはね 草のごと 寄り合ふ娘子は 君がまにまに (巻11・二三五一  柿本人麻呂歌集)
48 我が命し 衰へぬれば 白栲の 袖のなれにし 君をしぞ思ふ (巻12・二九五二  作者未詳)
49 磯城島の 大和の国は 言霊の 助くる国ぞ ま幸くありこそ (巻13・三二五四  柿本人麻呂歌集)
50 筑波嶺に 雪かも降らる いなをかも 愛しき子ろが 布乾さるかも (巻14・三三五一  東歌)
51 多摩川に さらす手作り さらさらに なにぞこの子の ここだ愛しき (巻14・三三七三  東歌)
52 君が行く 海辺の宿に 霧立たば 我が立ち嘆く 息と知りませ (巻15・三五八〇  作者未詳)
53 君が行く 道の長手を 繰り畳ね 焼き滅ぼさむ 天の火もがも (巻15・三七二四  狭野弟上娘子)
54 食薦敷き 青菜煮て来む 梁に 行縢懸けて 休めこの君 (巻16・三八二五  長意吉麻呂)
55 勝間田の 池は我知る 蓮なし しか言ふ君が 鬚なきごとし (巻16・三八三五  作者未詳)
56 織女し 舟乗りすらし まそ鏡 清き月夜に 雲立ち渡る (巻17・三九〇〇  大伴家持)
57 天皇の 御代栄えむと 東なる 陸奥山に 金花咲く (巻18・四〇九七  大伴家持)
58 紅は うつろふものぞ 橡の なれにし衣に なほしかめやも (巻18・四一〇九  大伴家持)
59 春の苑 紅にほふ 桃の花 下照る道に 出で立つ娘子 (巻19・四一三九  大伴家持)
60 もののふの 八十娘子らが 汲み乱ふ 寺井の上の 堅香子の花 (巻19・四一四三  大伴家持)
61 朝床に 聞けば遥けし 射水川 朝漕ぎしつつ 唱ふ舟人 (巻19・四一五〇  大伴家持)
62 春の野に 霞たなびき うら悲し この夕影に うぐひす鳴くも (巻19・四二九〇  大伴家持)
63 我がやどの いささ群竹 吹く風の 音のかそけき この夕かも (巻19・四二九一  大伴家持)
64 うらうらに 照れる春日に ひばり上り 心悲しも ひとりし思へば (巻19・四二九二  大伴家持)
65 韓衣 裾に取り付き 泣く子らを 置きてぞ来ぬや 母なしにして (巻20・四四〇一  他田舎人大島)
66 防人に 行くは誰が背と 問ふ人を 見るが羨しさ 物思ひもせず (巻20・四四二五  防人の妻)
67 あぢさゐの 八重咲くごとく 八つ代にを いませ我が背子 見つつ偲はむ (巻20・四四四八  橘諸兄)
68 新しき 年の初めの 初春の 今日降る雪の いやしけ吉事 (巻20・四五一六  大伴家持)


Ⅲ学僧仙覚と小川町
1 仙覚の生涯
   (幼くして研究を志す 校訂事業に加わる 研究に捧げた生涯)
2 仙覚の業績
   (厳格な本文校訂 漢字本文と緊密に対応した読み下し 初めての本格的注釈書)
3 仙覚の和歌
   仙覚略年譜(年齢は数え年)
4 『万葉集註釈』を完成した地―比企郡北方麻師宇郷政所
   (『万葉集註釈』の完成 比企郡北方麻師宇郷政所 信仰の地・比企郡)
5 小川町と仙覚を結んだ人々―佐佐木信綱が拓いた道
   (佐佐木信綱 石川巌 大塚仲太郎 認められた功績 仙覚への追贈)
6 小川町における仙覚顕彰
   (仙覚律師遺跡保存会と仙覚律師顕彰碑 仙覚律師贈位奉告祭と仙覚遺跡建碑式典
仙覚についての参考文献
監修者あとがき


             万葉うためぐり2