2012年4月30日月曜日

『萬葉学史の研究』の在庫について

2007年2月に上梓し、2008年10月に第2刷を発行した私の著書『萬葉学史の研究』は、現在アマゾンでは「お取扱いできません」となっており、「日本の古本屋」のサイトにもあまり登場しません。

『萬葉学史の研究』は品切れですね、と言われることが時々あります。実は、版元の「おうふう」にはまだ在庫があります。ご入用の方は、「おうふう」に直接お問い合わせください。または、上代文学会などの学会の大会会場に「おうふう」が出店していますので、そこでお問い合わせください。
おうふうのホームページ

なお、第2刷の際に、誤植の訂正と、6頁の「補記」の追加を行っています。第2刷にて、お読みいただきたく存じます。

「日本の古本屋」や古書店で購入くださる場合には、第2刷であるかどうかを必ずご確認ください。第2刷の特徴は以下です。

 ① 奥付に次のように記載されています。
   二〇〇七年二月二四日 初版一刷発行
   二〇〇八年十月一五日 初版二刷発行
    〔第1刷では、
      二〇〇七年二月一五日 初版印刷
      二〇〇七年二月二四日 初版発行〕
 ② 頁数が640頁です(奥付は639頁にあります)。
    〔第1刷は636頁です(奥付は635頁にあります)〕
 ③ 「あとがき」の末尾に「補記」があります(610~615頁)


『萬葉学史の研究』第2刷をお手元に置いて、利用していただけるならば、この上なく幸いです。

*『萬葉学史の研究』の紹介と目次


2012年4月11日水曜日

『美の万葉集』

美の万葉集

藍紙本万葉集の美
��高岡市万葉歴史館編『美の万葉集』高岡市万葉歴史館論集15、笠間書院、B6判356頁、2012年4月刊、2,800円〈本体〉)

高岡市万葉歴史館の編集する、「高岡市万葉歴史館論集」の第15冊、『美の万葉集』が刊行されました。

「高岡市万葉歴史館論集」は、『万葉集』について年度ごとに、「水辺」「色」「恋」「四季」などのテーマを立て、それをさまざまな角度から追究する論集です。この論集は、市民の中の博物館である高岡市万葉歴史館が、市民に研究成果を広く公開する役割も持っています。

「美」をテーマとするこの第15冊に、私も執筆の機会を賜りました。私の文章は、『萬葉集』の二番目に古い写本である「藍紙本(あいがみぼん。「らんしぼん」とも)万葉集」についての研究報告です。「藍紙本万葉集」は、平安後期・11世紀後半に書写された巻子本で、筆者は当時の能書・藤原伊房(これふさ。行成の孫)と推定されています。薄藍色の料紙にちなんで「藍紙本」と言います。

  萬葉集古写本の美―藍紙本萬葉集について―
    一 調度本としての萬葉集古写本
    二 平安時代の萬葉集古写本
    三 藍紙本の料紙装飾(藍紙本の復元)
    四 巻第九の原姿(藍紙本の復元)
    五 藍紙本の美
      
  *口絵カラー図版 
   1 萬葉集巻第九残巻(藍紙本)〈国宝〉(京都国立博物館蔵)巻9・1691
   2 同上 巻9・1707
   3 同上 料紙表面の顕微鏡写真
    (*3は、私が撮影したものを京都国立博物館の御許可を得て掲載しました)
  *付  表1 藍紙本巻第九の色相と横寸法
   表2 藍紙本断簡の色相と寸法
   表3 薄藍色の漉き染め紙の料紙の厚さ
   図1 萬葉集巻第九残巻(藍紙本)〈国宝〉(京都国立博物館蔵)第4紙と第5紙の継ぎ目
   図2 同上 巻9・1804下部の補修箇所(第23紙)
   図3 藍紙本萬葉集巻第九の推定原形と現状


私の研究報告では、京都国立博物館御所蔵の「藍紙本万葉集巻第九残巻」をはじめ、諸機関御所蔵の断簡や、同時期製作の藍紙の経典の調査をもとに、まず「藍紙本万葉集」の本来の装飾や規模を推定しました。

今日見る「藍紙本万葉集」は大小の銀の揉み箔を料紙全面に散らした華やかなものとなっています。金の揉み箔を散らしたところもあります。しかし、当初は、小さな銀の揉み箔のみをまばらに散らした静謐で気品あるものであったと考えられます。

現在「藍紙本万葉集巻第九残巻」は、本紙(ほんし)25紙と巻首紙・尾紙の各1紙の全27紙からなります(全長12.208m)。切り出された断簡をもとに戻し、また失われた部分の行数を計算すると、「藍紙本万葉集」の巻第九は本来本紙37紙、尾紙1紙の合計38紙からなり、その全長は約18mにも及ぶものであったと推定されます。威厳に満ちた姿が浮かび上がります。

また、私の研究報告では、「藍紙本万葉集」に独特な力強い筆致と料紙の関係を考察しました。

「藍紙本万葉集」の料紙は、一度漉いた地紙(じがみ)の上に、着色した繊維を流し掛けて堆積させる「漉き掛け」という技法によって色付けされています。それを示すのが、口絵に掲載した顕微鏡写真です。目の詰まった細い雁皮の無染色繊維の間を、鮮やかな青色に染まった太く長い楮(こうぞ)の繊維が走っていることが確認できます。

この「漉き掛け」の技法による料紙は、平滑で筆の滑りがよく墨が滲まない雁皮紙(がんぴし)と、濃い墨や細い線ではかすれやすい楮紙(ちょし)の両方の性質を具えることになります。能書・藤原伊房はこの特徴を最大限に利用して、「かすれ」を多用して力感と速度感を表現するとともに、濃墨の極太と極細の筆線によって強い装飾性をも実現していったと思われます。

そして、「藍紙本万葉集」の原姿や、その書のベースにある濃墨の重厚な上に柔らかみのある文字の姿に、同時代に薄藍色の経典が製作されていることや、青色が仏の国を荘厳する七宝の一つの「瑠璃」を表すものであったことなどを考え合わせると、「藍紙本万葉集」は供養(自分自身のための供養も含めて)を目的に作られた“祈りの書物”であった可能性があります。

詳細につきましては、この研究報告を御一読いただければ幸いです。なお、「研究報告」ではありますが、万葉集古写本の「美」について多くの皆様に知っていただきたく思い、論文のスタイルは採らず、叙述の仕方も可能な限り平易をめざしました。日本の豊かな書物文化に触れる一助にしていただければと願っております。

調査・研究を進めるに当たり、本当に多くの方々から大きなご支援とご学恩を賜りました。また顕微鏡写真を含め、図版の掲載につきましては、京都国立博物館の格別の御厚意により、掲載許可を賜りました(顕微鏡写真の不鮮明なところは、私の撮影技術の未熟さによるものです)。厚く御礼申し上げます。

なお、編集委員会の「編集後記」によれば、「高岡市万葉歴史館論集」はこの第15冊をもってひとまず休刊となります。開館25周年を迎える平成27年度(2015)まで、充電期間を持ちたいとのことです。『万葉集』の研究と普及に大きな役割を果たして来られた高岡市万葉歴史館の益々のご発展を心より祈念しております。

最後に私事にわたりますが、小松茂美先生の三回忌の行われる年に、この研究報告をまとめる機会を得ましたことを本当にありがたく思っております。

【目次】
『美の万葉集』の目次を紹介します。

万葉集の「美」について(坂本信幸)
「天離る夷」考―都の美と夷の情と―(岩下武彦)
ことばの「美」―序詞― ―用語「序」の発見をめぐって―(近藤信義)
さびしからずや道を説く君―天平感宝元年の家持をめぐって―(新谷秀夫)
女歌の美―大伴坂上郎女の言葉―(井ノ口史)
藤波の美の誕生―大伴家持「布勢の水海」遊覧歌―(田中夏陽子)
風土の美をうたう(関隆司)
天象の美(垣見修司)
赤人・ことばの美的整斉(森朝男)
大伴家持の美―巻十九巻頭越中秀吟―(小野寛)
萬葉集古写本の美―藍紙本萬葉集について―(小川靖彦)

訂正】私の研究報告中に誤りがありました。深くお詫び申し上げます。
320頁14行 (誤)財団法人国立文化財機構   (正)独立行政法人国立文化財機構
330頁5行  (誤)岡泰央(やすお)          (正)岡泰央(やすひろ)


2012年4月2日月曜日

2013年度からの青山学院大学日本文学科

AGU Spring

来年の2013年4月から、いよいよ青山学院大学日本文学科のカリキュラムが新しい体制となります。

東日本大震災のため延期になった文学部の青山キャンパス統合が、2013年4月に実現します。これに合わせて、新カリキュラムも2013年4月にスタートします。

この新しいカリキュラムについて、改めてアナウンスします。

■従来の「文学・語学コース」「日本語教育コース」の2コースが、「日本文学コース」「日本語・日本語教育コース」の2コースに再編成されます。

■「日本文学コース」には、日本文学を国際的な視野から捉える力を養う「文学交流科目」と、多様な表象を通して現代を論じる力を養う「表象文化科目」が新たに設置されます。
*「文学交流」とは、文学分野での国際的な交流を意味します。「文学交流科目」では、日本文学が海外の文学から受けた影響だけでなく、海外の文学に与えた影響についても考察を深めます。

■「文学交流科目
 「日本学入門」「文学交流入門」「日本文学研究のための英語」(1・2年次)
 「文学交流特講」「日本文学とアメリカ・ヨーロッパ」「日本文学とアジア」「中国文学・思想特講」(2~4年次)
 「文学交流演習」「翻訳演習」「中国文学・思想演習」(2~4年次)

■「表象文化科目
 従来の「表象文化論」(2~4年次)に、その基礎科目として「表象文化研究概論」(1・2年次)が加わります。

■「日本語・日本語教育コース」には、「文章表現法」「音声表現法」という日本語表現技術を学ぶ科目が、新たに設置されます(「日本文学コース」の学生も履修できます)。

■「日本語・日本語教育コース」の学生は、最終的には日本語専攻と日本語教育専攻に分かれますが、どちらの専攻の学生も、日本語学と日本語教育の両方の知識を身につけることになります。

新しい視野から日本文学、中国古典文学、日本語、日本語教育を学びたいという、意欲あふれる皆さんをお待ちしています。