2007年10月20日土曜日

「平家納経」を見るために

平家納経
(写真=小松茂美氏『平家納経の研究』)

10月27日(土)から11月25日(日)まで、厳島神社宝物館で展示される予定の「平家納経」(『法華経』二十八品各1巻に、『無量義経』1巻、『観普賢経』1巻、『阿弥陀経』1巻、「紺紙金泥般若心経」1巻、平清盛の「願文」1巻の計33巻)は、日本の巻物(巻子本)文化の最高峰です。

��世紀以来の日本の巻物文化の技術の総決算であるとともに、新興勢力である平家ならではの、大胆な、新しい美への挑戦が行われています。

この「書と紙と色の交響楽」(小松茂美氏)を、さらに深く味わうためのポイントを紹介します。

何よりも大切なことは、写真ではわからない、色の美しさや、線の力強さを味わうことです。そのために、観覧前に、下に挙げた書物(特に1)で、「平家納経」についての知識をある程度得ておくとよいと思います。


(1)巻物の大きさに注目する
① 写真ではわからないのが、巻物の大きさです。特に、縦の寸法に注意してください。写真で見ていた時より、意外に小さいことに気付きます。

(2)見返し絵を見る
① 色の鮮やかさに注目します(写真は原本とかなり違うことがあります)。

② やまと絵では、「線」が命となります。人物を描く「線」の力強さ、柔らかさを十分に味わいましょう。

*羅刹女を女房姿で美しく描く、「涌出品(ゆじゅつほん)」と『観普賢経』との「線」の違いに注目してみても面白いと思います。

③ まとまりある情景を描く「序品(じょほん)」などでは、散る紅葉、流れる水などの細部の自然表現が、画面に時間の流れを作り出しています。中心的な人物を見た後、細部にも目を向けましょう。

(3)料紙を見る
① 巻物では、全体の「流れ」が大切になります。料紙の装飾(「引き染め」や「隈ぼかし」など)や下絵が変化してゆく様子に注意します。
*「引き染め」=刷毛で紙の表面を染める方法。刷く回数によって濃淡が出る。
��「隈ぼかし」=ところどころを刷毛で染め、周辺に水をかけてぼかすという技法。


② 金または銀で引かれた界線(罫線)を観察します。その細さ、一定の濃さに驚くと思います。縦の界線が、どこから引かれ、どこで収められているかを観察することも大切です。

③ 巻かれた部分からも貴重な情報が得られます。料紙の裏側の様子がわかります。また巻かれた状態の部分を、下から見ると、その料紙がどのように染められたかが、ある程度わかります。

*白い場合は刷毛染め、色がある場合は浸し染めの可能性があります。

(4)書を見る
① 一行一行の姿を見ます。技術の低い書写者の場合、一行は右へ左へと蛇行してしまいます。「平家納経」では、もちろんまっすぐな線を描いています。

② ひとつひとつの文字が全体でかもし出している雰囲気を味わいます。
*『観普賢経』では、小振りで、右に傾いた文字で書かれています。細い線を用い、繊細な印象を与えます。

巻物は、総合芸術と言えます。細部を丁寧に観察してゆくならば、その技術の高さ、そしてそれに支えられた美を、深く味わうことになるでしょう。

[主な参考文献]
��.小松茂美『図説 平家納経』戎光祥出版、2005(最も親しみやすい入門書。図版多数)
��.小松茂美『平家納経の世界』中公文庫、中央公論社、1995(後半は、小松先生の自伝)
��.小松茂美『平家納経の研究』研究編(上・下)、図録編、講談社、1976〔絶版〕(最も精緻な平家納経研究)
��.白畑よし『やまと絵』河原書店、1967〔絶版〕(136~142ページに、「平家納経」の見返し絵に描かれた情景についてのわかりやすい説明あり)