2007年10月18日木曜日

大岡信『古典を読む 万葉集』

大岡信『古典を読む 万葉集』

『万葉集』への良き導き手
��大岡信『古典を読む 万葉集』岩波現代文庫、岩波書店、2007年9月刊、900円〈本体〉)

この10年の間に、『万葉集』についての良質の入門書が、書店の店頭から姿を消してしまいました。大岡信氏の『古典を読む 万葉集』が、岩波現代文庫の1冊として再刊されたことは、本当に喜ばしい出来事です。

『万葉集』の長い研究の歴史、成立、時代背景、文字(漢字)との関わり、『万葉集』の中の文学史など、今日の万葉集研究の基本を学ぶことができます(もちろん、本書の原書が出版された1985年から、万葉集研究はさらに複雑になっています。しかし、その基礎には、1980年代までの研究成果があります)。

その上で、現代詩人の視点から、『万葉集』の歌人たちのことばの森を探ってゆきます。柿本人麻呂の、大胆で、矛盾に満ちた、詩的冒険についての解読は、本書の圧巻です。

今回、本書を読み直して、大岡氏が、歌集(アンソロジー)を編むことの意義を繰り返し説いていることが改めて注意されました。『万葉集』の編者は、歌による物語作者でもあり、すぐれた批評家でもあったのです。

『万葉集』を、一部の「書物」として読むことが、今後ますます重要になるでしょう。