2008年2月27日水曜日

青山学院大学文学部日本文学科編『文字とことば』

『文字とことば』

漢文からの自立のための苦闘
��青山学院大学文学部日本文学科編『文字とことば―古代東アジアの文化交流―』青山学院大学文学部日本文学科、2005年5月刊、A5判、162頁)

このところ、このブログに掲載している「漢字に託す恋の心」「万葉集の文字法(1)(2)」の記事は、本書『文字とことば―東アジアの文化交流―』に収めた、私の論文「萬葉集の文字法」に、基づいています。論文のままでは、わかりにくいところを補ったり、ブログには掲載しにくいデータを、省略したりしています。また、この論文で割愛した問題についても、今後の記事で、紹介したいと思っています。

本書は、2005年3月12日(土)に開かれた、国際学術シンポジウム「文字とことば―古代東アジアの文化交流―」(青山学院大学文学部日本文学科主催)の基調報告を、論文集としてまとめたものです。

古代東アジアの研究は、中国と日本との関係、中国と高句麗・百済・新羅などの朝鮮半島の国々との関係の考察に、力点が置かれてきました。しかし、このシンポジウムでは、中国以外の国々の間の、文化交流―特に「文字」―に、光を当てることをめざしました。

シンポジウムには、企画・立案をした矢嶋泉氏(日本文学)を中心に、歴史学・韓国語学・日本語学・日本文学の研究者が集いました。日本と古代朝鮮半島の国々は、公式の文字言語として、東アジア世界の中心である、中国の漢字・漢文を、否応なく受け入れなければなりませんでした。このシンポジウムを通して、それぞれの国々が、それぞれの「ことば」に即した、文字言語を獲得するために行った苦闘の痕が、鮮明に浮かび上がりました。

日本の片仮名の起源が、経典に新羅語を書き入れる時に用いられた、省画体にある可能性が示されました(小林芳規氏)。「文字」に関する、日本と、古代朝鮮半島の国々の近さが、今まで以上に、明らかになったと言えます。

また、日本では、9世紀に、平仮名が、「文字」として、漢字・漢文から独立するのに対して、古代朝鮮半島では、「文字」の独立が、15世紀を待たなければなりませんでした。その歴史的条件の違いについても、議論が及びました。

本書『文字のことば』には、基調報告全体を見通す総論が、新たに加えられています。またパネリストの論文も、基調報告に、当日の議論を踏まえた加筆が施されています。「文字」という、一見地味なテーマでありながら、シンポジウム当日には、予想を越えた多数の方々に、御来場いただきました。本書は、その熱気を伝えるものとなっています。

【目 次】
はじめに
和文成立の背景(矢嶋泉)
古代東アジアの国際環境(佐藤信)
韓国の古代吏読文の文末助辞「之」について(南豊鉉 NAM PUNG-HYUN)
文字の交流―片仮名の起源―(小林芳規)
古代日本の漢字文の源流―稲荷山鉄剣の「七月中」をめぐって―(安田尚道)
萬葉集の文字法(小川靖彦)
かな文学の創出―『竹取物語』の成立と享受に関する若干の覚書―(高田祐彦)
あとがき

��論文集という形になっていますが、できるかぎり、わかりやすい記述を心がけています。
*本書は、一般の流通経路には乗っていません。青山学院大学文学部日本文学科主催の国際学術シンポジウム開催時に、会場にて販売されます。残部がありますので、次回開催の国際学術シンポジウム以前に入手されたい方は、青山学院大学文学部日本文学科合同研究室にお問い合わせください(ただし、日本文学科合同研究室は、2月中は閉室です。3月に開室しますが、水曜日・金曜日のみの開室となります)。
��「文字とことば」より後の、青山学院大学文学部日本文学科主催の国際学術シンポジウムの成果は、「新典社選書」として刊行されています(『源氏物語と和歌世界』『海を渡る文学』)。本書『文字とことば』も、流通経路に乗る書物として、改めて刊行する案も出ていますが、今のところは、具体的なアクションは、何も起こしていません。