2008年2月29日金曜日
謙慎書道会展70回記念「日中書法の伝承」展(予告)
中国の新出文字資料と日本の名筆
2008年3月13日(木)から3月22日(土)まで、東京美術倶楽部3F・4Fにて、謙慎書道会の主催する、謙慎書道会展70回記念「日中書法の伝承」展が開催されます。
後援:文化庁、中国大使館、読売新聞社
企画協力:東京国立博物館
入場:10時~18時
入場料:1000円(前売り800円)
青山学院大学日本文学科合同研究室入口に貼られたポスターに、心引かれて、どのような資料や作品が展示されるのか、謙慎会事務局に問い合わせました。事務局の特別の御厚意で、会場で配布されるガイドブックを送っていただきました。
カラー写真を数多く使ったガイドブックを目にして、駭嘆を禁じ得ませんでした。
中国の文字資料としては、殷墟出土甲骨、西周代の小克鼎(以上は、日本の諸機関で所蔵)など、東アジアにおける、文字の誕生と発展を知る上で、重要な資料が展示されます。また、唐代書写の『説文』口部の残簡をはじめ、刻石、拓本、蘭亭序、明・清の名筆、篆刻の展示もあり、中国書道史・文字史の流れを見渡すことができます。
特に注目したいのは、今回、中国から出品される、湖南省出土の木簡40点です。木簡の限られたスペースに、どのように文字を記すかということに、以前から関心を持っています。ガイドブックを見ると、篆書、隷書の他に、草書の木簡もあります。木簡のスペースと、草書の関係を、是非見てみたいと思います。
その他、敦煌研究院所蔵(青山杉雨氏旧蔵)の敦煌文書13点の、再来日もあります。
日本の作品では、「かな」の早い資料である、伝西行筆「仮名消息(延喜式紙背)」(11世紀初)、そして伝藤原行成筆「関戸本古今和歌集」断簡、伝藤原定実筆「筋切」、伝藤原行成筆「針切」、伝藤原公任筆「石山切(伊勢集)」などの、平安時代を代表する名筆を中心に、約50点が出品されます。
私が、もっとも興味を引かれるのは、伝小野道風筆「継色紙」です。『万葉集』巻13の歌を、「かな」で記した断簡が展示されます。
〔万葉集漢字本文〕明日香河瀬湍之珠藻之打靡情者妹尓因来鴨 (巻13・3267)
〔現代の読み下し文〕明日香川 瀬々の玉藻の うちなびき 心は妹に 寄りにけるかも
(あすかがは せぜのたまもの うちなびき こころはいもに よりにけるかも)
〔訳〕明日香川の瀬々の玉藻が靡くように、私の心は、すっかりあなたに靡いてしまった。
【継色紙】あすかゝは せゝのたまもの うちなひき こゝろは君に よりにしものを
『万葉集』の、平安時代・鎌倉時代の古写本でも、〔現代の読み下し文〕とほぼ同じように、読み下しています。ところが、「継色紙」の本文は、漢字本文から、大きくはずれています。これは、単なる誤写ではなく、「書物」としての「継色紙」の性格と、深く関係しているはずです(平安時代の万葉集訓読の性格については、小川『萬葉学史の研究』をご参照ください)。
「継色紙」独特の、空間の構成の仕方を、実際に観覧しながら、この問題について、思いをめぐらしたいと考えています。
今年の3月は、文字、書、書物に関わる、充実した展覧会が、次々と開催されます。心が躍ります。
*ガイドブックをお送りくださった、謙慎書道会事務局の格別の御厚意に、心より御礼申し上げます。