2007年10月7日日曜日

桂本万葉集の美しさ(文字のちから)

國文學 文字のちから

『万葉集』の最古の写本は、桂本(かつらぼん。一巻。平安中期、源兼行(みなもとのかねゆき)筆。御物)です。桂本には、現代の活字本の『万葉集』にはない美しさがあります。

まずはその書です。平安時代の『万葉集』の写本は、歌を漢字で書いた後に(『万葉集』の歌は、本来すべて漢字で書かれています)、改行してその読み下しを平仮名で書きます。そして、その漢字と平仮名が美しい調和を見せるのです。

桂本では、兼行の得意とする、広い空間を使った、ねばりのある漢字につり合うように、回転部を大きくした、安定感ある平仮名が書かれます。

そして桂本は、巻物(巻子本。かんすぼん)です。巻物の特徴は、冒頭から末尾まで、切れ目なく連続してゆくところにあります。桂本では、漢字と平仮名が追いつ追われつしながら、それぞれの書体や字形を次々と変えてゆきます。漢字と平仮名が、時には同調し、時には反発し合いながら、さながら音楽のように展開してゆくことに、驚きを覚えずにはいられません。

巻物である桂本を味わうためには、一部分だけを見るのではなく、全体の「流れ」を感じることが大切になります。



詳しくは、以下を御覧ください。

・小川靖彦「萬葉集―漢字とかなのコラボレーション」(『國文學』平成19年8月臨時増刊号、特集・文字のちから―写本・デザイン・かな・漢字・修復―、学燈社刊)

��この特集は、日本の文字の歴史、日本文学研究が積み重ねてきた写本研究の成果、デジタル技術を用いた最先端の文字研究、保存修復の現在などをわかりやすく紹介したものです。
��古筆学という新しい学問を打ち立てた小松茂美先生のインタビューもあります。
http://www.gakutousya.co.jp/cgi-bin/menu.cgi?ISBN=0160

http://kasamashoin.jp/2007/07/820077.html


【桂本の複製本】
①『御物 桂本』集英社、1976〔絶版〕(巻子本。料紙の色、下絵の色を復元)
②『平安 桂萬葉集』日本名跡叢刊99、二玄社、1986(冊子本。モノクロ。ただし、口絵に連続したカラー写真あり。一巻として桂本を味わえる)
③『桂万葉集』日本名筆選27、二玄社、1994(冊子本。カラー。断簡の写真も広く集める)