2007年10月19日金曜日
小川靖彦『萬葉学史の研究』
豊饒な研究分野・万葉学史
��小川靖彦『萬葉学史の研究』おうふう、2007年2月刊、636頁、15,750円〈税込〉)
『万葉集』には、平安時代以来1200年近い研究の歴史があります。今日、私たちが『万葉集』を読むことができるのは、この分厚い研究の歴史があるからです。
しかし、『万葉集』の研究の歴史は、素朴な段階から、現代の高度な研究に発展してきたという、単純なものではありません。今日の眼から見て、“誤り”と見えるものにも、実はきちんとした論理があります。
平安時代の古写本のレイアウト、現代とは異なる平安時代や中世における『万葉集』の訓読・注釈の方法などを、ひとつひとつ検討してゆくと、それらが、時代の知の構造や文化に深く根ざしていることがわかります。
また本書では、万葉学史に画期をもたらした、鎌倉時代の学僧仙覚の自筆書状を、新たに紹介しました。この1枚の書状から、北条実時を中心とした鎌倉文化人たちのネットワークの存在が浮かび上がりました。
万葉学史の研究は、歌集と政治との関わり、「古代」像の変貌、古典を取り巻く文化的ネットワーク、「思想」としての学問、「書物」というものが具現する聖性と権力、などの問題を解明する、実に豊饒な研究分野なのです。
��本書は、私の最初の著書です。1年をかけて、本書のもととなった、過去10年に書き継いで来た論文を、全て修訂しました。1冊の本を作ることの難しさと面白さを体験しました。
��貴重な資料の写真も、多数収録しています。
*本書は、9月末以来、在庫切れとなっていましたが、2008年10月前半に第2刷が刊行されることとなりました。
【目 次】
序章 萬葉学史の研究とは何か
第一部 萬葉集写本史の新しい視点
第一章 題詞と歌の高下―レイアウトに見る平安時代の政治史・和歌史・文化史の中の古写本―
第二章 巻子本から冊子本へ―冊子本萬葉集のページネーション―
第二部 日本語史・日本文学史のなかの萬葉集訓読
第一章 〈訓み〉を踏まえた萬葉集歌の改変―『古今和歌集』の「萬葉歌」をめぐって―
第二章 天暦古点の詩法
第三章 かなの文化の中の萬葉集訓読―平安から中世へ―
第四章 「よみ(訓み・読み)」の整定―『新古今和歌集』の「萬葉歌」をめぐって―
第五章 統合される「よみ(訓み・読み)」―宗祇『萬葉抄』における萬葉集訓読―
第三部 仙覚の萬葉学―十三世紀における知の変革―
第一章 仙覚書状(金沢文庫旧蔵名古屋市蓬左文庫蔵『斉民要術』紙背文書)について
―萬葉学者仙覚と北条実時との関わり―
第二章 国文学研究資料館蔵『萬葉集註釈』(第二冊・智仁親王筆)
―『萬葉集註釈』の本文整定のための基礎資料―
第三章 道理と文證―『萬葉集註釈』の知の形式―
第四章 「心」と「詞」―萬葉集訓読の方法―
第五章 方法としての「ことわり」―萬葉集歌注釈における理法と詩学―
第四部 仙覚の萬葉学の行方
第一章 筑後入道寂意(源孝行)
―由阿による秘伝の系譜の創出(付、レガリアとしての仙覚寛元本萬葉集)―
第二章 『萬葉集目安』(正式名称『萬葉集註釈』)―南北朝期に誕生した「新注釈」―
終章 萬葉学史の研究の課題
年表(Ⅰ平安時代の『萬葉集』写本年表、 Ⅱ仙覚略年譜)
原論文一覧
あとがき
索引(1萬葉集諸本、2書名(萬葉学史に関わる)、3人名(萬葉学史に関わる)、4研究者名)