2007年11月6日火曜日
湯山賢一編『文化財学の課題』
和紙への新しいアプローチ
��湯山賢一編『文化財学の課題 和紙文化の継承』勉誠出版、254頁、3,200円〈本体〉)
『万葉集』の原本には、どのような紙が使われていたのでしょうか。それを知るためには、和紙、さらに中国紙や朝鮮半島の紙についての知識が必要になります。
これまでの、日本の書物の料紙についての研究では、経験をもとに、その材料を判断することが多かったように思います。ところが、文化財学を中心に、和紙への、新しい科学的、文化史的アプローチが始まっています。
その大きな成果の一つが、本書です。総本山醍醐寺に伝わる、膨大な紙の史料を基礎に、醍醐寺における聖教・文書の伝承のされ方、科学的方法(C染色液による材質の判定、顕微鏡による繊維の形の観察など)による文書の紙質の分析結果などが、鮮烈に示されます。
また、写経では、紙面を平滑にし、墨のにじみを最小限にするために打紙加工を必須としたのに対して、消息(手紙)では、むしろ墨のにじみや、連綿の濃淡が良しとされたことも、明らかにされています。消息が、書き手の息づかいを、紙面の上でも伝えようとするものであったことがわかります。
その他、広く、日本の和紙文化を展望する論も収録されています。『万葉集』の作製された、8世紀の光明皇后願経の料紙が、苧麻(ちょま。イラクサ科多年生草本。中国では主に南方で自生)約80%、雁皮(がんぴ。ジンチョウゲ科落葉低木。日本で自生)約20~25% からなるという事実には、想像力が刺激されます。
書誌学が培ってきた、きめ細かな観察方法と、文化財学の科学的、文化史的アプローチを併せ持つことが、これからの“書物学”に必要なことであると思います。
【目 次】
Ⅰ はじめに
序言(湯山賢一)
Ⅱ 講演
1 醍醐寺と紙文化(仲田順和)
2 和紙に見る日本文化(湯山賢一)
3 醍醐寺の文化財とその管理(長瀬福男)
Ⅲ 報告
1 醍醐寺史料とその修理(池田寿)
2 醍醐寺聖教とその料紙―特に楮紙打紙に注目して―(永村眞)
3 中世における紙の流通(富田正弘)
4 古代の製紙技術(大川昭典)
5 書籍の修理―古文書―(鈴木裕)
6 史料複本の作成(塚本和夫)
7 史料情報の処理システム(熊本真理人)
Ⅳ 討論 日本の紙文化―文化財の保存と活用