2008年7月4日金曜日

巻物を調べる時に敷く紙

レーヨン紙

巻物を調べる時には、机の上に置いて広げて見ます。ふつうは、図書閲覧用の机を使います。日本では、ヨーロッパの保存修復室にあるような、表面のやわらかい、特別な机が設置されているところは、あまりないようです。

そこで、巻物を机の上に置くところから、細心の注意が必要になります。

普通の図書閲覧用の机や、大学の教室の机の上にそのまま置くと、何かのはずみで傷をつけてしまったり、汚したりする危険性があります。また、虫食いや水濡れなどで、傷みの激しい巻物の場合、表紙や本紙の一部がはずれ、その小紙片を見失ってしまう恐れもあります。貴重な情報を失うことになりかねません。

古い巻物はもちろん、写本・刊本・文書や、複製本でも貴重なものを調べる場合には、紙を敷きます。

以前、私は、白いフェルトを用いたこともありますが、表面がやや毛羽立っているので、写本の表紙や料紙がからむことが心配でした。

日本女子大学の永村眞先生(日本中世史)から、巻物や文書の調査の際には、強めの、薄様の紙を、4~5枚敷いていることを伺いました。さらに、いつもお世話になっている神田の山形屋紙店で、意見を聞きましたところ、比較的安価な、レーヨン紙がよいでしょう、とのことでした。

レーヨン紙は、木材パルプなどのセルロース部分を、化学薬品などで溶解して製造した繊維(再生繊維)を原料とする紙です。やわらかく、表面が極めて滑らかです。

以後、巻物を調べる時には、私は、必ずレーヨン紙を持ってゆくようにしています(長いレーヨン紙を切らずに、軽く折りたたんで持ってゆきます)。そして、4~5枚重ねた上で、巻物を開いています。
*今まで、このブログに掲載した、さまざまな本の写真で、本の下に敷かれている紙も、レーヨン紙です。

ただし、レーヨン紙と一口に言っても、やわらかさ、表面の滑らかさ、光沢、風合などの点で、さまざまな種類があります。

私は、山形屋紙店のものと、東急ハンズ(池袋店)のものと使っています。山形屋紙店のレーヨン紙は、和紙風、東急ハンズのレーヨン紙は、洋紙風または布風です。イギリスのコンサバター(修復家)の知人に見せたところ、東急ハンズのものを大変気に入った様子でしたので、何枚か進呈しました。

ところが、今年の5月、久しぶりに東急ハンズ池袋店に行ったところ、和紙やレーヨン紙を扱っていたコーナーは、別のフロアに移動・縮小されており、しかもレーヨン紙を見つけることはできませんでした。店員さんに尋ねると、そもそも「レーヨン紙」というものが何かを、知りませんでした。

残念ですが仕方がありません。新たなレーヨン紙を探してみることにします。

なお、レーヨン紙は、薮田夏秋先生の『あなただけの巻物・折り本づくり』や、中藤靖之氏の『古文書の補修と取り扱い』にも、作品や、修復する本紙を保護するための養生紙として登場しています。

私も、下敷きとして使うばかりだけでなく、巻物の表紙や本紙の厚さを測るために使う、木製の台を包むのにも用いています。

��関連文献]
��.薮田夏秋『あなただけの巻物・折り本づくり』日貿出版社、2002年
��.神奈川大学日本常民文化研究所監修、中藤靖之著『古文書の補修と取り扱い』雄山閣出版、1998年(第1刷)、1999年(第3刷)