2008年3月29日土曜日

第43回秀華書展特別資料展示「古典かなの美展」(急告)

古典かなの美展1
(写真=『春敬コレクション名品図録』〈右上に「豆色紙」の写真〉と、「古典かなの美展」パンフレット)

必見、力みなぎる名筆の数々

先の記事「第43回秀華書展特別資料展示「古典かなの美展」(予告)」で紹介しました、「春敬コレクションによる『古典かなの美展』」が、現在開催されています。

開催初日に観覧に行きました。非常に密度の濃い、展示空間に、深い感銘を受けずにはいられませんでした。4月1日(火)までの展示です。是非、足をお運びください。

この展示会では、「関戸本古今集切」「貫之集切」をはじめ、有名な、平安時代の「かな」の名筆が、出品されています。そして、今までの名筆のイメージが、一新されます。

素紙に書かれた[3]関戸本古今集切の筆線は、鋭く、しかも繊細です。そして、その底に、しなやかな力強さを湛えています。染色紙に、鷹揚に書かれた断簡とは別の、関戸本古今集切の表情を見ることができます。

漢詩を2行書き、和歌を3行書きにして、贅沢な空間の使い方をする、[2]大字和漢朗詠集切では、漢字も「かな」も、おおらかに書かれ、明るい空間を作っています。

『和漢朗詠集』の断簡ということでは、三種類の[4][5][6]伊予切が、一同に集められていることも、注目されます。それぞれの漢字の、清朗な草書の美しさには、感動を覚えます。この草書と「かな」によるコラボレーションには、目が離せません。

一方、この展示会では、[19]カタカナ古今六帖切[20]田歌切などから、いわゆる名筆とは異なる、文字のちからと美しさを知ることができます。濃い墨色で、力強く書かれた、これらの作品は、「かな」の名筆のような、鑑賞のされ方を意識したものではないでしょう。しかし、その内容に、確かな形を与えたいという熱意が伝わってきます。

そして、圧巻は、[24]豆色紙(鎌倉時代)です。縦7.7㎝、横7.0㎝という、実に小さな空間の中が、充実した気で満ち満ちています。力動感のある筆線は、密度の極めて高い空間を、作り上げています。
*なお、先の記事「第43回秀華書展特別資料展示「古典かなの美展」(予告)」では、「豆色紙」を、『拾遺和歌集』断簡としましたが、『春敬コレクション名品図録』によれば、拾遺和歌集歌に限らず、古歌を集めた私撰集です。
��展示されている「豆色紙」は、『拾遺和歌集』の源順(みなもとのしたごう)の歌です。
  恋しきを 何につけてか なぐさめむ 夢だに見えず 寝る夜なければ (恋二・735)
  〔訳〕恋しい思いを、いったい何によって慰めればよいのでしょうか。
     夢であなたに会うことさえもできません。恋しさに、眠ることもできないので。

見ることのできない「夢」のイメージと、料紙の墨流しが微妙に調和しています。
  

この展示会では、『万葉集』の断簡も、2点、出品されています。平安時代の「かな」の名筆から観覧してくると、特に[11]天治本万葉集が、独自の、書と「書物」の世界を持っていることを、実感しました。『万葉集』の書物史について、大きな示唆を得たように思います。

30点の作品に、書の力強いいのちを、感じました。そして、これらの作品を貫く、飯島春敬氏の審美眼と、書にかけた情熱を思わずにはいられませんでした。
*飯島春敬氏が、芸術としての書を確立するために、また第二次世界大戦後の混乱した状況の中で、いち早く、書の再興と教育のために、力の限りを尽くされたことを、『飯島春敬全集』別巻1(書藝文化新社、1984年)によって、知ることができます

飯島春敬氏の、力強いいのちは、この展示会と隣接した会場で開かれている、第43回秀華書展の作品にも受け継がれています。特別資料展示と作品展を観覧の後、いつまでも、清朗な感動が、揺曳し続けました。

*理事長・飯島春美先生、常務理事・大谷洋峻先生をはじめ、財団法人・日本書道美術院の皆様に、格別のご厚情を賜りました。心より御礼申し上げます。


【出陳目録】
��1]伝藤原行成筆 針切(重之子僧集) 1幅
��2]伝藤原行成筆 大字和漢朗詠集切 1幅
��3]伝藤原行成筆 関戸本古今集切 1幅
��4]伝藤原行成筆 伊予切第一種 1幅  〔*和漢朗詠集断簡〕
��5]伝藤原行成筆 伊予切第二種 1幅  〔*和漢朗詠集断簡〕
��6]伝藤原行成筆 伊予切第三種 1幅  〔*和漢朗詠集断簡〕
��7]伝藤原行成筆 貫之集切 1幅
��8]伝藤原公任筆 和泉式部続集切 1幅
��9]伝藤原公任筆 中務集(なかつかさしゅう)切 1幅
��10]伝藤原公任筆 太田切 1幅  〔*和漢朗詠集断簡〕
��11]伝御子左忠家筆 天治本万葉集 巻十(仁和寺切) 1幅  〔*巻15・3737~3740〕
��12]伝御子左忠家筆 柏木切(類聚歌合) 1幅
��13]伝御子左俊忠筆 二条切(類聚歌合) 零巻
��14]伝源頼政筆 三井寺切 1幅  〔*頼政集断簡〕
��15]元暦校本万葉集 巻十一(有栖川切) 1幅  〔*巻11・2798~2800〕
��16]伝西行筆 曽丹集枡形本切 1幅  〔*曽禰好忠集断簡〕
��17]伝西行筆 五首切(神祇切) 1幅  〔*「右大臣(九条兼実)家百首」草稿断簡〕
��18]伝寂蓮筆 右衛門切[個人蔵] 1幅  〔*古今和歌集断簡〕
��19]伝寂蓮筆 カタカナ古今六帖切 1幅
��20]伝寂蓮筆 田歌切 1幅
��21]藤原俊成筆 顕広切 1幅
��22]伝坊門局筆 惟成集(これしげしゅう)切 1幅
��23]伝源実朝筆 中院(なかのいん)切 1幅  〔*後拾遺和歌集断簡〕
��24]伝後京極良経筆 豆色紙 1幅  〔*古歌集断簡〕
��25]藤原定家筆 三首詠草懐紙 1幅
��26]伝宗尊親王筆 十巻本歌合 寛平御時后宮歌合 1幅
��27]伝宗尊親王筆 催馬楽切 1幅  〔*鍋島家本催馬楽抄断簡〕
��28]伏見天皇筆 広沢切[個人蔵]  〔*伏見院御集断簡〕
��29]伝藤原行尹筆 新撰朗詠集切 1幅
��30]本阿弥光悦筆 色紙 1幅  〔*木版下絵のある料紙に、「君がため惜しからざりし命さへ長くもがなと思ひけるかな」〈百人一首・藤原義孝〉を書く〕


古典かなの美展2
(会場では、貴重な、飯島春敬氏蒐集の古筆の写真を収録する『春敬コレクション名品図録』〈書藝文化新社、1992年〉、詳細な解説の付いた「古典かなの美展ポストカード」(カラー)が、販売されています。なお、『春敬コレクション名品図録』に収められていない古筆も、出品されています。詳細な展示解説も、お見逃しないように。)