2008年1月6日日曜日
東京国立博物館「宮廷のみやび」展
(写真=図録『宮廷のみやび 近衛家1000年の名宝』)
書物文化研究の宝庫・陽明文庫
2008年1月2日(木)から2月24日(日)まで、東京国立博物館で、陽明文庫創立70周年記念特別展「宮廷のみやび 近衛家1000年の名宝」が開かれています。
五摂家(ごせっけ。摂政・関白の職を継承する五家)の筆頭である近衛家は、藤原家に伝わる儀式作法に関わる書物の収集に努め、王朝文化を伝える家として道を歩んできました。そして、書画などにも造詣の深い文化人を、輩出しました。
今回の「宮廷のみやび」展は、近衛家の収集した膨大な文書・典籍・美術工芸品約200点を、公開するものです。これほどまでに大規模に、近衛家の伝えた、貴重な文化財が展示される機会はなかなかありません。必見の展示です。
そして、この「宮廷のみやび」展は、日本の書物文化に触れる、絶好の機会です。写真だけではわからない、日本の書物の生き生きとした姿に触れることができます。
1月4日に、私も観覧に行きました。「万葉集と古代の巻物」の立場から、見所を紹介します。
[13]白氏詩巻(国宝。1巻。平安/寛仁2年〈1018〉写。東京国立博物館蔵)
・色変わりの料紙が使われています。各紙の横の寸法が、写経に比べて短いことが、注目されます。
[19]源氏物語(重要文化財。54帖。鎌倉/14世紀。陽明文庫蔵)
・縦15.7㎝、横14.8㎝という、小ささに驚きます。「書物」としての『源氏物語』のイメージが、変わることでしょう。
[88]本阿弥切(古今和歌集断簡)(重要美術品。1葉。平安/12世紀。陽明文庫)
・巻子本でありながら、縦16.7㎝という、小さなものです(巻子本の標準的な縦の寸法は、25~28㎝)。11世紀後半には、やはり縦14.3㎝の巻子本である曼殊院本古今和歌集が製作されています。これらを開いた時の印象は、冊子本を思わせるものがあります。
・11世紀後半から12世紀にかけての、「書物」として古今和歌集を考える、興味深い材料と言えます。
・「書物」としての大きさに対応した、文字の繊細さにも、心惹かれます。
[166]益田池碑銘断簡(1巻。平安/12世紀。宮内庁三の丸尚蔵館蔵)〔1月27日(日)まで〕
・空海の碑文を、紙に写したものです。その豪放な文字をじっと見ていると、料紙の界線が気になってきます。界幅の、比較的広い、写経料紙が使われています。界線は細く、きちんと引かれています。
[173]安宅切(あたかぎれ)(和漢朗詠集断簡)(1巻。平安/11~12世紀。宮内庁三の丸尚蔵館蔵)〔1月27日(日)まで〕
・色変わりの料紙や、様々な装飾加工紙を継いで、著しく変化に富む巻子本です。その多彩な料紙をまたいで、金銀で、細長い土坡(どは)が描かれます。書体は、比較的統一されています。変化と統一の妙を感じます。
[186]草書孝経巻(そうしょこうきょうかん)(1巻。中国・唐/7~8世紀。宮内庁三の丸尚蔵館蔵)〔1月27日(日)まで〕
・極めて希少な、唐代の儒教経典写本です。界線が不思議です。縦界線が、天と地の横界線を超えて、紙の端にまで及んでいます。よく見ると、縦界線が二重になっているようです。あるいは、墨の界線の上から、箆(へら)などで、もう一度界線を引いているのかもしれません。
・また、横界線が、料紙の継目でずれていることも、気になります。
[191]倭漢抄下巻(国宝。2巻。平安/11世紀。陽明文庫蔵)
・頂に五弁の花、側面に鳥の文様のある、軸端(じくばな)にも注意したいと思います。
[196]多賀切(たがぎれ)(和漢朗詠集断簡)(重要文化財。1幅。平安/永久4年〈1116〉。陽明文庫蔵)〔1月27日(日)まで〕
・多賀切は、訓点(訓読するための符号)を書き込んだ、現存最古の、和漢朗詠集の写本です。この多賀切が、界線の引かれた料紙を用いていることは、大変興味深いことです。
・和漢朗詠集の、早い時期の写本では、装飾的な料紙が使われています。美術工芸品から、漢学のテキストへの変化は、料紙にも現れているようです。
*1月29日(火)から展示替えとなります。
��会場は、「第1章・宮廷貴族の生活」のセクションばかりが、異様に混雑しています。先に進めば進むほど、観覧者はまばらになります。第1章で、全精力を使ってしまわないことが、コツです。
��図録はかなり重いので、これに書き込みながら観覧することは、今回は諦めました。