このたび、私の新刊『万葉集 隠された歴史のメッセージ』が、2010年8月29日(日)付の『毎日新聞』の「今週の本棚」で紹介されました。
記事は、『毎日新聞』のウェブ・サイトにもアップされています。
今週の本棚・本と人:『万葉集 隠された歴史のメッセージ』
この記事につきまして、お知らせがあります。
・「雄略は『皇女を母に』生まれている」は、正確には「雄略は『皇族を母に』生まれている」です。
(雄略天皇の母・忍坂大中姫は、応神天皇の皇孫です。)
・「代々皇女を母としてきた軽皇子(文武天皇)」は、正確には「皇女を母とする軽皇子(文武天皇)」です。
(天智天皇・天武天皇の母・斉明天皇も、敏達天皇の曾孫で皇族です。)
詳しくは、『万葉集 隠された歴史のメッセージ』を、お読みいただければ幸いです。
2010年8月31日火曜日
2010年7月29日木曜日
安田靫彦画伯「飛鳥の春の額田王」
命の輝き
このたび上梓しました私の本『万葉集 隠された歴史のメッセージ』(角川選書、角川学芸出版、2010年7月刊)の表紙には、日本画家・安田靫彦画伯(やすだ・ゆきひこ 1884~1978年)の「飛鳥の春の額田王」(滋賀県立近代美術館蔵)を使わせていただきました。
「飛鳥の春の額田王」は、安田画伯の代表作で、多くの本に取り上げられています。中学生や高校生のための『国語便覧』などにも写真が載せられています。
それだけに既視感を強く持ってしまっていたこともあり、私は写真の絵が感じさせる、やや平面的な印象に飽きたらないものも感じていました。むしろ、安田画伯の歴史画では、最初期の「遣唐使」(1900年、16歳)の力強い筆線に心惹かれていました。
ところが、この印象が全く浅いものに過ぎなかったことを覚りました。2009年春に、千葉市美術館にて開催された「大和(やまと)し美(うるは)し 川端康成と安田靫彦」展で、私は「飛鳥の春の額田王」を初めて目にしました。息を呑みました。
縦131.1、横80.2㎝の大きな紙面の放つ豊かな力に、まず驚かされました。そして、額田王の生き生きとした表情に感動を覚えずには居られませんでした。赤みの差した頬はふっくらと感じられ、しかも清潔な美しさを湛えていました。
『万葉集』の人々は、
あからひく 色(いろ)ぐはし児(こ)(赤く照り輝く美しいあなた) 〔巻11・1999〕
のように女性の美しさを赤い色で表現しました。
赤は命の輝きを示す色でした。大海人皇子(天武天皇)が、額田王を
紫(むらさき)のにほへる妹(いも)(紫のように美しく色映えるあなた) 〔巻1・21〕
と言ったのも、「紫」が赤系統の色と考えられていたからです。大海人皇子は、赤の輝きに加えて、「紫」の高貴さも具えた最高の女性として、額田王を褒め称えたのです。
安田画伯の「飛鳥の春の額田王」は、この額田王の命の輝きと凛とした美しさを鮮やかに表現した作品であったのです。この作品が制作されたのは、1964年、画伯80歳の時です。画伯の命の若々しさと円熟とが、この額田王の姿を生み出したのでしょう。そして、この作品には、額田王への、安田画伯の温かな眼差しがあります。
私の本の表紙を決めるに当たり、編集部から「飛鳥の春の額田王」を強く薦められました。私は『万葉集』の入門書に最もふさわしい絵の一つと思いながらも、躊躇しました。写真では、この作品の命の輝きが失われてしまうことを恐れたからです。
しかし、編集部のご努力によって、作品の命を感じさせる写真に仕上げていただきました。そして今、この作品を使わせていただいたことを、心から感謝しています。
額田王の歌の底には、生きることへの肯定的姿勢があります。それは、『万葉集』全体に通じるものです。安田画伯の「飛鳥の春の額田王」は、そのような『万葉集』の世界へ、私たちを力強く、温かく導いてくれるようです。
「飛鳥の春の額田王」を再び目にする日を、心待ちにしています。
[主な参考文献]
��.『安田靫彦』新潮日本美術文庫34、新潮社、1998
��.財団法人奈良県万葉文化振興財団編『開館一周年記念特別展 図録 歴史画のゆくえ-近代日本絵画の名品でたどる万葉の世界-』奈良県立万葉文化館、2002
��.『大和し美し 川端康成と安田靫彦』求龍堂、2008
2010年7月17日土曜日
小川靖彦『万葉集 隠された歴史のメッセージ』
万葉集とは何か
��小川靖彦『万葉集 隠された歴史のメッセージ』角川選書、角川学芸出版、四六判296頁、2010年7月刊、1600円〈本体〉)
このたび、私の新しい本『万葉集 隠された歴史のメッセージ』が、角川学芸出版から角川選書の1冊として刊行されました。発売予定日は7月23日(金)でしたが、21日(水)から書店、インターネットで販売が始まっています(書店では、選書の棚に置かれています)。
この本は、“万葉集とは何か”について考えた万葉集入門書です。『万葉集』という「書物」を全体として捉えて、その魅力と歴史的意義を示すことをめざしました。
書名は、『万葉集』という「書物」が何のために製作されたのかを考察した、第一章に基づいています。『万葉集』を巻子本(巻物)として、連続的に読むと、『日本書紀』とは異なる〈歴史〉が見えてきます。
表紙は日本画家の安田靫彦画伯の「飛鳥の春の額田王」(滋賀県立近代美術館蔵)です。
この本が『万葉集』への水先案内となれば幸いです。
【目 次】
はじめに
第一章 『万葉集』という「書物」-「やまと歌」による〈歴史〉の創造
【第一章のための基礎知識】
一 「書物」としての『万葉集』
二 皇統の《始祖》-一番歌・雄略御製
【コラム1・一番歌はいつ作られたか】
三 満ち足りた実りの国-二番歌・舒明御製
四 歴史上の舒明天皇
【コラム2・不思議な標目】
五 天皇による統治の完成への歩み
六 藤原宮の主・文武天皇
【コラム3・皇位継承の次第を示す配列】
七 巻子本であった『万葉集』
八 成長する「書物」・『万葉集』
【コラム4・音読から黙読へ】
第二章 万葉歌人たちの詩の技法
【第二章のための基礎知識】
一 額田王の〈媚態(コケットリー)〉
二 柿本人麻呂の想像力
三 山上憶良の悟り得ぬ心
四 大伴家持の孤独
五 作者未詳歌の輝き
第三章 漢字に託す心-漢字で書かれた「やまと歌」
【第三章のための基礎知識】
一 巻一の書記法-記憶に支えられた大胆な表記
二 『万葉集』の《文字法》
三 漢字から「かな」へ
第四章 万葉集古写本の世界
【第四章のための基礎知識】
引用文献一覧/学びの導き手
おわりに
角川書店のホームページ
【訂正】誤植がありましたことを、お詫び申し上げます。
(誤) (正)
46頁9行 ことば選んだ ことばを選んだ
118頁17行 九世紀半ばまでの 十世紀半ばまでの
142頁2行「石見」の振り仮名 いわみ いはみ
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