2009年5月4日月曜日
財団法人石川文化事業財団 お茶の水図書館
万葉集研究の宝蔵、佐佐木信綱収集「竹柏園本」
千代田区神田駿河台に財団法人石川文化事業財団 お茶の水図書館があります。
お茶の水図書館は、日本唯一の女性雑誌専門図書館です。
このお茶の水図書館に、古典学者で歌人の佐佐木信綱(1872~1963)が収集した、貴重な古典籍・古文書・資料の一大コレクション「竹柏園本(ちくはくえんぼん)」が収蔵されています。
*「竹柏(なぎ)」(マキ科の常緑高木)の葉が堅実で、二枚重ねると力士でも裂くことができないことに因んで、師弟共研の意義を表すために、信綱の父・弘綱(国学者・歌人)が「竹柏園(なぎぞの)」と号し、信綱もその遺志を継いで、歌の会を「竹柏会(ちくはくかい)」と名づけた。(佐佐木信綱「加敝里見天(かへりみて)」による)
お茶の水図書館では、1944年(昭和19)に石川弘美氏が「竹柏園本」のうち、主に『万葉集』に関わる典籍や文書を購入しました(お茶の水図書館ホームページによる)。
1944年には、信綱は73歳。この年、アメリカ合衆国の中部太平洋地域軍は、マーシャル諸島、マリアナ諸島と兵を進め、日本軍を破り、東京空爆の前線基地を手中に収めました(11月24日に東京空爆が始まります)。このような状況下で、信綱は空爆の始まる前に、貴重な資料の保存に力を尽くしたのでした。
お茶の水図書館の所蔵する「竹柏園本」は、現代の活字本の『万葉集』の底本として使われている西本願寺本万葉集(20帖。鎌倉後期写)を始めとする写本や、写本の断簡、刊本、さらに中世・近世・近代の万葉学書、約2000冊(661タイトル)に及びます(分量は、お茶の水図書館のホームページによる)。
その目録である佐佐木信綱編『竹柏園蔵書志』、さらに「竹柏園本」を中心とする『万葉集』の写本・刊本、万葉学書の簡単な解説書である、佐佐木信綱著『萬葉集事典』の「典籍篇」(615~801頁)を見ると、その豊富で多彩なタイトルに驚かされます。毎回見るたびに、このような書物があったのかという「発見」があります。
*『萬葉集事典』「典籍篇」の今偶然開いたページには、イングラム『万葉集解説』(『ジャパン・マガジーン』第4巻第5号、1913年〈大正2〉8月)が挙がっていました。
最近、塙保己一検校による元暦校本万葉集の模写・刊行事業について研究するため、「竹柏園本」の貴重な資料の閲覧に、久しぶりでお茶の水図書館を訪れました。
以前は、明治大学駿河台校舎の向かいにありましたが、現在は主婦の友社ビルの隣にあります。新しい瀟洒な図書館の前で、開館時間を待つ間、神田川岸のまばゆいばかりの新緑が目に飛び込んできて、清々しい気持ちになりました。
落ち着いた閲覧室で、塙検校の元暦校本にかける思いを生き生きと伝える文書を、じっくりと閲覧するという、豊かな時を過ごさせていただきました。
お茶の水図書館の所蔵する「竹柏園本」には、詳しい調査・研究が必要な古典籍・古文書・資料がまだまだたくさんあります。多くの人々とともに、「竹柏園本」の調査・研究を通じて、新しい研究テーマを発見していきたいと思っています。
[佐佐木信綱についての基本文献]
��.佐佐木信綱『佐佐木信綱文集』竹柏会、1956年 (*戦前の『小学国語読本』などに採られた「松坂の一夜」などの文章や、1985年までの年譜を収録)
��.鈴鹿市教育委員会編『新訂 佐佐木信綱とふるさと鈴鹿』鈴鹿市教育委員会、1994年 (*小冊子ながら貴重な情報を収める。1990年までの年譜を収録。廣岡義隆先生から賜りました。御礼申し上げます)
��引用文献]
��.佐佐木信綱編『竹柏園蔵書志』臨川書店、1988年
��.佐佐木信綱『萬葉集辞典』平凡社、1956年
【図書館情報】
財団法人石川文化事業財団 お茶の水図書館
〒101-0062 東京都千代田区駿河台2-9
閲覧日:木曜日・日曜日・祝日・年末年始・館内整理日等を除く、午前10時から午後5時まで
・古典籍・古文書部門の閲覧は予約制。「閲覧申請書」(ホームページからダウンロードできる)に必要事項を記入して、郵送で申し込み。資料の状態調査等を行って、閲覧日時を調整。
ホームページ:http://www.ochato.or.jp/
*入館の時から退出まで、図書館の皆様から、暖かなご厚意とさりげないお心遣いを賜りました。心より御礼申し上げます。
【訂 正】
「*女性専用図書館ですが、古典籍・古文書部門については、男性も閲覧できます。」という注記を付けましたが、これは移転以前の知識にもとづく誤りでした。現在は、20歳以上ならば、どなたでも利用できます。