2008年10月13日月曜日
「書物」の装い
(写真=表紙を選ぶために作った見本)
まもなく、私の著書『萬葉学史の研究』(第2刷)が刊行になります(10月17日頃に完成します)。第1刷の2005年12月の最初の入稿から刊行まで、1年以上の時間がかかりました。今、訂正と「補記」を加えた第2刷の刊行を目前にして、静かな感慨を覚えています。
「書物」を作る難しさを本当に味わいました。その中でも、楽しい思い出として残っているのは、第1刷刊行最終段階での、表紙の選定作業です。
『萬葉学史の研究』は、編集者と相談の上、上製本・クロス(布)表紙となりました。「書物」の装いは、その内容とも深く関わるものと、私は思っています。どのような装いがふさわしいか、自分の手元にある研究書や、図書館・書店の研究書を見て歩きました。
日本仏教学会編『仏教の生命観』(平楽寺書店)の、黒に銀字の、重厚でありながら鋭さを感じさせる表装や、小松茂美先生の著作集(旺文社)の落ち着きと華やぎを備えた緑に金字の表装に心惹かれるものがありました。
やがて、私の中で、濃い緑に銀字というイメージに絞られてきましたが、いざ実際にクロスを選ぶとなると、簡単なことではありませんでした。
担当の編集者だけが残った、夜の出版社で、私と編集者と製本担当者の3人で手分けをして、膨大なクロース見本帳から、イメージに近い布を選び出してゆきました。
最後に6種類のクロスが残りました。濃緑の3種類と、青みがかった濃緑の3種類です。そして、それぞれに微妙に布の織り方が違っていました。
しかし、夜に、蛍光灯の下、2時間近く見本帳を見ていると、どれも同じように見えてきます。判断がつかずにいると、見かねた編集者が、手際よく見本帳から、小片を切り出し、紙に貼り付けました。「もうこれ以上ここで見ても決まりません。家で、家族の皆さんと考えてください」とその紙を手渡してくれました。
それらの6枚の小片を何度も見て、基礎的研究からなる『萬葉学史の研究』には、より色の濃い、青みがかった濃緑の方がよいと判断しました。さらにその3種類から選ぶのにも、あれこれ考えました。1枚は現代風で華やかで繊細な織り、別の1枚はしっかりした重厚な織りでした。結局、その中間の両方の性質をほどよく兼ね備えた織りに落ち着きました(東京リネンFヤマト21 №113 №325-24)。
実際に仕上がった『萬葉学史の研究』を手にし、その装いが、最初にイメージしていたものよりも、はるかに手堅く、そして清々しいものとなったことを、本当に嬉しく思いました。
ささやかな経験でしたが、古代の「書物」の装いに込められた思いの深さを実感する良い機会でした。
*10月16日(木)に完成しました。まもなく書店の店頭に並ぶことと思います。
��デジタルカメラが故障してしまい、画像がアップできません。電源は入りますが、撮影モードにすると、液晶モニターに画像が写りません。製造会社で調べてもらったところ、高温多湿環境下での保管・使用により、デジタルカメラに搭載されたCCD内部の配線接合箇所が、外れているとのことでした。同社の製品で、このような故障については、無償で修理をしています。
��明日には、デジタルカメラが帰ってきます(修理は、3時間ほどで出来ます)。戻り次第、表紙見本の画像などを紹介します。