〔以前、阿武の人麻呂さんのご質問にお答えする形で、『万葉集』の独習法について書き記しました。コメント欄を現在のところ当面休止していますので、現在読めない状態になっています。ここに記事として再録いたします。少し補足したところもあります。
阿武の人麻呂さんからのご質問は、独学で『万葉集』、特に柿本人麻呂について勉強するための、良い方法はないか、ということでした。〕
独学をするためには、まず信頼できるテキストを手元に置いてください。どのようなテキストがあるかは、このブログの記事「『万葉集』のテキスト」をご覧ください。「新編日本古典文学全集」(4冊)がベストですが、まずは、ハンディな、中西進氏の講談社文庫(4冊)を、手元に置かれることから始めてもよいと思います。
(1) そのテキストで、作品を読み、面白いと思った点、疑問に思った点などを、ノートに書き留めていってください。ノートは、小さめの方がよいでしょう(書き込むことは、どんな初歩的なことでも、構いません。自分自身の、作品に対する手触りが、勉強の出発点となります。コクヨのノートで言えば、4号の大きさくらいがよいでしょう。)。
その次に、是非、図書館を活用してください(やや大きめの図書館ならば、以下の本が所蔵されていると思います。ない場合には、購入の希望を出すとよいでしょう)。
(2) 柿本人麻呂についての、万葉学者の書いた、信頼できる複数の本を読み、人麻呂に関する基礎的知識を、頭に入れます。また、本同士の、考え方の違いにも、注意してください。次の本を、紹介します。
・稲岡耕二『柿本人麻呂』(王朝の歌人1)、集英社、1985年 【絶版】
・橋本達雄『謎の歌聖 柿本人麻呂』(日本の作家3)、新典社、1984年
・中西進『柿本人麻呂』(日本詩人選2)、筑摩書房、1970年(講談社学術文庫版もあり)
��なお、梅原猛『水底の歌』については、今は読まないでおいてください。)
3冊を読むことで、人麻呂の全体像や、研究の進め方を、おおまかにつかむことができるでしょう。さらに3冊の違いを通して、どのようなことが、研究の上で問題となっているかも、見えてくると思います。
1冊を読み終えたら、やはり、自分が感じた、面白い点や疑問点を、ノート(先にあげた小さめのノートでよいでしょう)に書き留めてください。
また3冊をもとに、自分なりの、人麻呂ハンドブックを作っておいてもよいでしょう(3冊の違いを、整理してもよいと思います)。
(3) 自分の関心のある、人麻呂の作品について、解釈ノートを作ってください。図書館で、記事「『万葉集』のテキスト」で紹介しました、注釈書を手懸かりに、その作品の、言葉の意味について、調べて、ノートしてゆきます。この時、その図書館に、『時代別国語大辞典 上代編』(三省堂)という国語辞典があれば、是非利用してください。この時のノートは、普通の大きさ(B5版)のものがよいでしょう。
ひとつひとつの言葉の意味を調べてゆく中で、今までわからなかったことがわかって、納得をしたり、また新しい疑問が生まれて来たりします。
注釈書によって、ひとつの言葉について、解釈が分かれる場合もあります。その時には、一つに決めてしまわず、併記をしておくとよいでしょう。
また、この言葉に、解説がほしいのに、書いていないという場合もあります。それも、大切な、自分の疑問点としておいてください。
作品の言葉と向き合うことで生まれた疑問が、さらに自分の研究テーマへと、成長してゆくことになります(テーマを持つことで、さらに勉強が深まります)。このテーマを、どのように深めてゆくか、という次の段階については、またの機会に御説明したいと思います。