2008年4月17日(木)付の『読売新聞』夕刊の、シリーズ「明日へ・書を囲む」に、古筆学者・小松茂美先生の近況を紹介する記事が、掲載されました。
『古筆学大成』の刊行にいたるまでの、情熱と努力が簡潔にまとめられています。そして、83歳になれた今、後白河法皇の研究に没頭され、66年にわたる法皇の生涯を、一日刻みで再現する「日録」を、ほぼ完成されたことが、紹介されています。
王者の風格が備わる、後白河法皇の筆跡も魅力、と小松先生はおっしゃっています。その筆跡の背後にある、激動の人生が、間もなく、小松先生ご自身が独自に開拓された古筆学の、あらゆる方法が駆使されながら、鮮烈に描き出されると思うと、心弾みます(小松先生の古筆学は、書を中心として、国文学・歴史学・美術史・宗教学などを集大成する学問です)。
書斎で撮影された、清い御姿の写真とともに、「書は季節に関係なく、昔は365日の関心事。今も人間錬成の場だと思います」というお言葉が、強く印象に残りました。
なお、先生の被爆のこと、『平家納経』との出会い、古筆学を確立されるまでの格闘、そして学問や、今日の書のあり方についての思いについて、「インタビュー・古筆学に生きる」(『文字のちから―写本・デザイン・かな・漢字・修復―』所収)で、さらに詳しくお話ししてくださっています。先生の激しい生き様は、私たちに大きな勇気を与えてくれます。
「インタビュー・古筆学に生きる(小松茂美)」目次
��『文字のちから』65~82頁(18頁分)=
��.書とのめぐりあい―父と恩師によって
��.書に生かされる―「書は人間の錬成によって立派になる」
��.被爆、そして池田亀鑑博士『古典の批判的処置に関する研究』との縁
��.『平家納経』への思い “生きている間に見たい”
��.池田亀鑑博士との出会い「私は必ずあなたを助ける」
��.二荒山本『後撰集』・今城切からの着想―断片を元の形に復元する
��.古筆学の樹立 “人間錬成の格闘”
��.『平家納経』から後白河法皇へ―美と生と死と
��.文字のいまと古筆学のこれから―“文字性”の喪失
【インタビューから】
・「今になって考えることは、学問であれ何であれ、それが人間錬成の格闘だということです。その中で私は学問を選んだということなのです。商人であれ、作家であれ、画家であれ、歌舞伎役者であれすべて同じです。そういうことで、ありとあらゆることを自分の栄養にしなければいけないなと思いましたね。」(77頁)
・「今現在、私は後白河法皇の六十六年間の生涯を追究していますが、これは古筆の歴史的な研究かというそうではない。しかしこれが究極の古筆学だと私は思っています。私の古筆学の終焉、最後の大事業として進めているこの古筆学は複雑多岐な方法をとっています。ありとあらゆる学問の集大成なのです。」(79頁)
・「そして、何であれ、まずは本物と偽物の見分けが付くように己れの“眼”を養っていただきたいですね。」(インタビューの結びに。82頁)
��『文字のちから―写本・デザイン・かな・漢字・修復―』学燈社、全196頁、2007年12月刊、1,800円(本体)